なごやかに すこやかに 遊和 yuwa 体の健康は「置き薬で」 心の健康は「遊和」で・・・

この人に聞きたい 「『自然に生きる』事で身体能力を引き出す」 武術研究者 甲野善紀さん

今回は昔の武術の研究者である甲野先生にご登場いただきます。その武術を使った心身の働きかけは、さまざまな分野で話題となっています。 テレビ番組でも特別講師として、古武術に学ぶ身体の使い方を紹介されました。全国各地で講演されてご多忙な中、お話を伺いました。


甲野善紀さん

武術の道に入った理由

幼い頃の私は人見知りがひどく引っ込み思案だったので、一人で野山の自然の中で遊んでいました。将来は牧畜をやりながら自然の中で暮らしたいと思ったので大学は畜産学科に進みました。しかし、いざ入ってみると「いかに効率よく生産性を上げるか」と動物が物のように扱われていることに失望し、この道を断念しました。

こうした経緯から縁ができた自然食や、そこから関心を持った禅や荘子に関する本を読みながら「人間にとっての自然とは何か」を真剣に考えるようになりました。そして、21歳のときに「人間の運命は完璧に決まっていて、同時に完璧に自由である」という結論に至りました。これを体感を通して納得したいと思い、武術の道に進みました。まずは合気道を学び、29歳のときに武術稽古研究会を立ち上げて自分で納得のいくような武術の研究を始めました。

今はスポーツや介護、楽器演奏などに武術の動きを応用するアドバイスもしています。身体がうまく使えるようになると、スポーツの常識では考えられないような動きもできるようになります。


身体感覚を失った現代人

昔の人は生活や仕事で必要だったので、身体の上手な使い方を自然に学んでいきました。現代では便利さと引き換えに、身体をうまく使う身体感覚をほとんどの人が失っていると思います。たとえば、木に登ったときに手を離すと落下するので、命を守るために枝を握ります。仕事で身体を動かすときも、疲れないようにうまく身体を動かそうとします。こうした動きには必然性がありますね。しかし、現代の筋トレには必然性がなく、筋肉に負荷をかけて早く疲れさせるために身体を動かしていることになってしまっています。 何もしないよりはいいですが、「上手に身体を使う」のとは違います。

二本足で歩く人間にとって一番の非常事態は転倒することなので、本来は学校の体育で怪我をしない転び方、つまり受け身の取り方を教えるべきだと思います。転び方が下手だと骨を折る人もいますし、打撲によってはそれがずっと身体の障害になってしまうこともあります。つまずいたときはあごを引き、身体を丸めてコロンと転がれば衝撃を吸収できます。

...続きは遊和44号でご覧ください。

甲野善紀さん

PROFILE

甲野 善紀(こうの よしのり)

武術研究者。1949年東京都生まれ。 20代初めに武術の道に入り、1978年松聲館(しょうせいかん)道場を設立。以来、剣術、抜刀術、杖術、槍術、薙刀術、体術などを独自に研究。その技と術理がスポーツや楽器演奏、介護、ロボット工学、教育などの分野からも注目を集めている。 著書に『古武術に学ぶ身体操法』(岩波書店)、『古の武術から学ぶ 老境との向き合い方』(山と渓谷社)、『上達論』(方条遼雨氏と共著・PHP研究所)、『驚くほど日常生活を楽にする 武術&身体術』(山と渓谷社)など多数。

ページトップへ