今回は「脳番地」の考案者としても知られる脳科学のスペシャリスト・加藤俊徳先生です。加藤先生が代表を務める「脳の学校」でお話を伺いました。アタマが元気になるお話をたくさん聞かせていただくうちに、取材者側の私たちの脳もイキイキしてきたように感じる、そんなインタビューでした。

脳の可能性を求めて
私は新潟県生まれで山や海の大自然に囲まれて育ち、漁師をしていた祖父と4歳頃から一緒に漁船に乗って海に出ていました。祖父のことが大好きで、将来は漁師になるかと思っていました。
私には難読症があって、音読だけでなく文章をスラスラと読むこともできません。そのため、学校の成績は散々で家族に心配をかけていると思い、スポーツで一番になれば喜ぶのではないかと考えて体を鍛えるようになりました。
トレーニングをすれば体は鍛えられましたが、国語や英語はどうすれば伸びるのか分かりませんでした。そこから「脳は場所によって働きが違うのではないか」と思うようになり、詳しく知りたくて医学部を目指すことにしました。もちろん、本が読めなくては医学部に行けませんので好きな短い詩を暗唱したり、本を読む前に著者の講演を聞いたりするなど、あらゆる工夫をしました。また本が読めるようになりたくて、受験浪人のときには本の街とされる東京・神保町に住んでいました。
その後、二浪までして入った医学部には自分の知りたい脳医学の学問がありませんでしたが、小児科医となり子どもたちとその脳の成長をみているうちに、一人ひとり成長が違うことが分かってきました。
さらに、医者になって2年目のときに英語の論文を書き上げ、35歳で渡米したときにはできなかったアドリブ英語が3年で話せるようになったのです。英語の習得には苦しみましたので、この自分の代わり映えをみて脳は変わることができると自覚したんです。
人間の脳は20歳以降も成長する伸びしろがたくさんあって、自分自身を研究することで「脳の可能性」を実感していきました。そして、35歳のときに自分が知りたい脳の機能を計測する装置を発明しました。
脳番地を提唱
一人ひとりが脳を使いこなすことができたらより素晴らしい人類社会が訪れると思い、考えたのが「脳番地」論です。
脳は一つの大きな臓器ではなく場所によって役割が分かれていて、私はこれを町名のように「脳番地」と命名しました。

人間の脳は左脳と右脳に分かれていて、全体で120ほどの脳番地があります。番地ごとにそれぞれ働きがあり、思考や判断に関係する思考系、物事や外部から与えられた情報を理解して役立てる理解系、目で見た情報を集積する視覚系など、大きく分けると8つの脳番地があります。
健康な脳は、すべての脳番地をまんべんなくバランスよく使っているといえます。バリバリ仕事をしていても記憶力が衰えてくるのは、いつも決まった脳番地ばかりを使って偏った脳になっているからです…

PROFILE
加藤 俊徳(かとう としのり)
新潟県生まれ。医師・医学博士。株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。小児科専門医。
1991年、脳活動計測法を発見。現在、世界700カ所以上で脳研究に使用されている。
1995年~2001年、米国ミネソタ大学にてアルツハイマー病や脳画像の研究に従事。
帰国後、胎児から超高齢者まで1万人以上のMRII脳画像とともにその人の生き方を分析。
ビジネス脳力診断、発達障害や認知症などの予防脳医療を実践。
著書に『脳の強化書』シリーズ(あさ出版)、『100歳まで脳は成長する 記憶力を鍛える方法』(PHP文庫)『「めんどくさい」がなくなる脳』(SBクリエイティブ)などがある。